研究テーマ

1. DNA鎖損傷を指標とする吸収線量の評価法に関する研究

2. 高線量率環境
に対応する
線量測定方法
の実用化開発

              ラジオアイソトープ総合センター 准教授 清水 喜久雄


概要

  被ばく量の管理のために用いられる個人線量計としては、測定精度が高く、小型、軽量なものとしてTLD素子やフィルムバッジが実用化されている。これら既 存の個人線量計のメカニズムは、熱ルミネッセンス現象やフィルムの感光作用など、物理・化学的作用を応用したものである。一方で、放射線影響の要因は、人 体の細胞中のDNAの切断や酸化損傷が主である。そこで本研究室では、リアルタイムPCR(polymerase chain reaction)を用いた、DNA増幅効率を指標としたγ線吸収線量の評価法について研究・開発を行っている。

 また、高線量率および高汚染エリアの復旧作業のために、蛍光ガラス線量計の技術を応用した新しい環境線量測 定方法を実用化を目指しています。本技術では、放射線量に応じて蛍光を発するガラス素子をビーズ化し、道路や壁、水路・トレンチ等に散布・塗布し、紫外線 ランプ照射により高線量箇所を可視化することができます。本ガラス素子は1mGy〜100Gyの範囲を高温環境下(約300℃)で測定することが可能であ り、原発内やその周辺の除染・瓦礫撤去作業に用いることを想定しています。

リアルタイムPCRとは?

 PCRは、目標とする領域の配列のみを増幅するのに用いられる。 PCR処理をn回のサイクルを行うと、1つの2本鎖DNAから目的部分は2n倍に増幅する。
 リアルタイムPCRは、ポリメラーゼ連鎖反応時にDNA増幅時に取りこまれる蛍光色素を評価することで、増幅されるDNA量を定量できる手法である。増 幅産物量が蛍光検出できる量に達すると増幅曲線が立ち上がり始め、指数関数的に上昇した後、プラトーに達する。初期の鋳型DNA 量が多いほど、増幅産物量は早く検出可能な量に達するので、増幅曲線が早いサイクルで立ち上がる。ここから初発のDNA量を定量することができる。

Fig.1 PCRの原理

本手法の原理

  鋳型DNAに放射線照射による損傷があれば、ポリメラーゼ連鎖反応を阻害すると考えられる。ポリメラーゼ連鎖反応による増幅率はサンプルの鋳型DNAの量 に比例するため、DNA鎖の損傷を評価することができ、ここから吸収線量を算出することが可能であると考えられる(Fig.2参照)。

Fig.2 本手法の原理

実験方法

  出芽酵母S288cのURA3領域(804 bp)をPCR(polymerase chain reaction)によって増幅し精製した反応物をDNAサンプルとした。DNAサンプルの濃度は0.01ng/1反応とした。DNAサンプルに対し、千 代田テクノル大洗研究所のガンマ線源を用い、ガンマ線(LET:0.2KeV)を照射した(Fig.3参照)。吸収線量は0.05 Gy−1.0 Gyである。照射したサンプルDNAを鋳型とし、EcoTM Real-TimePCR System (illumina®)を用い、未損傷の鋳型DNAの量を評価した。

Fig.3 ガンマ線照射の様子

主要な結果

  リアルタイムPCRの解析結果をFig.4に示す。縦軸がリアルタイムPCRの評価によって得られた未損傷の鋳型DNA量、横軸がガンマ線の吸収線量であ る。Fig.4は、吸収線量の増加に伴って、DNA増幅効率が低下していることを示している。DNA増幅効率の低下は、鋳型DNAに生成した酸化的損傷 (グアニン塩基の酸化損傷等)や鎖切断に起因すると考えられる。今回の結果は、本手法がDNA鎖切断を指標として放射線による影響を評価でき、被ばく量の 管理のために用いられる個人線量計として応用できる可能性を示すものである。

Fig.4 ガンマ線照射によるDNA増幅率の変化